大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(う)194号 判決

被告人 村木正彦

〔抄 録〕

検察官の論旨は要するに、原判決が被告人に対し、公職選挙法第二五二条第一項所定の選挙権及び被選挙権の停止(以下、公民権の停止と略称する)をしない旨の言い渡しをしたことは、諸般の犯情に照らし、その量刑が甚だしく軽きに失して不当であつて破棄を免れないというにあり、弁護人の論旨は要するに、原判決が被告人に対し公民権停止をしなかつたことは相当であつて、検察官の論旨は理由なく、本件控訴は棄却さるべきであるというにある。

いうまでもなく、公職選挙法の主たる目的、精神は、選挙が公明且つ適正に行なわれることを確保することにあり、同法が一定の選挙犯罪を犯した者に対し原則として公民権を停止すべきことを定めたのは、右の如き犯罪により選挙の公正な執行を害すべき者に対し公民権を行使させることが同法の目的等に照らし不適当であるとの考慮に基くものにほかならないのである。かかる観点に立ち、本件につき記録を調査するのに、本件戸別訪問は原判示のとおり二十戸の多数に及び、しかも被訪問者の多くは、原判示檜原村の村会議長、村会議員、消防団の役員等の公職にあり、又原判示五日市町の町会議員等の公職にあり、いずれも村又は町の指導的地位にある有力者と目される者であるから、これらの者たちを介し更に他の選挙人たちに影響を及ぼしたことも十分推認できるところであり、結局本件戸別訪問が本件選挙の公正な執行につき有害な行為であることは多言を要しないところであつて、その罪質、罪態に照らし、被告人の犯情は悪質といわざるを得ない(もつとも検察官は、被告人が前記二十戸以外にも多数の戸別訪問を行なつた形跡が窺われるから、本件はいわば氷山の一角に過ぎないと主張し、又本件被訪問者らのうちには、被告人がかつて東京都議会議員に立候補した際に被告人を支持した者が含まれていること及び被告人が来るべき東京都議会議員選挙に再度立候補の意図を有していたことなどを併せ考察すると、被告人としては、単に小山省二に当選を得しめる目的のみで本件戸別訪問を行なつただけではなく、自己の選挙の事前運動をも兼ねて行なつたものと推認され、これらの事情も、被告人の犯情が甚だ悪質なることを示す証左である如く主張するけれども、右の論旨中、被告人が来るべき東京都議会議員選挙に再度立候補する意図を有していたことは後記のとおり認め得るところではあるが、その余の主張事実についてはこれを肯認させるに足りる証拠が十分でないことは、弁護人の指摘するとおりである。しかし、これらの事実の有無にかかわらず、被告人の犯情が前記のとおり悪質であることには変りはない)。しかも被告人には買収事犯による公職選挙法違反の前科のある事実、それにもかかわらずあえて本件戸別訪問の犯行に及んだ事実、更には原審公判廷において、来るべき東京都議会議員選挙に立候補する旨を明言している事実等を総合すれば、被告人にはさして反省の態度が認められないのみならず、遵法精神の欠如も著しいものがあると認めざるを得ないことは検察官の指摘するとおりである。以上すべての事情を勘案すれば、証人加藤市蔵の原審公判廷における供述によつて認められる被告人の従前の経歴、人柄、その他記録上認められる一切の情状、はた又弁護人指摘の諸般の情状を被告人の利益に参酌しても、被告人の本件戸別訪問について、公民権停止に関する公職選挙法第二五二条第一項の規定を適用しない特段の例外的情状を発見することはできない(なお、仮りに弁護人主張の如く、戸別訪問禁止の規定が遠からず廃止される動向、運命にあるとしても、現行法規上戸別訪問が禁止されている以上、該法規が厳に遵守されなければならないことは言をまたないところであつて、本件の場合、法の背景にある動向を無視することは時代の要請に反する結果ともなるなどという論旨は失当というほかはない)。しからば、被告人に対し公民権の不停止を言い渡した原判決は、公職選挙法の目的、精神に反してその量刑が寛に過ぎるものといわざるを得ず、破棄を免れない。結局検察官の論旨は理由あるに帰する。

(三宅 石田一 金)

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